短歌の目第十回12月の総評です・後編
第十回12月、ラストの回は30名のご参加となりました。
皆様ありがとうございました。
ラストですので、今回の皆様のご投稿作品から運営が個人的に「いい!」と思ったものを上限3つまででピックアップ、感想を述べさせていただきます。
なお今回のピックアップ基準は、基本定型を守った上で、
「三十一文字で物語を感じられること」
「詠み手さん比で上達が感じられること」
「詠み手さんの世界観が感じられること」
です。
今回は後編として、エントリ−16〜30名の方へのご感想です。
前編はこちら
tankanome.hateblo.jp
皆さまの作品一覧はこちら
tankanome.hateblo.jp
16.
yureru-skirt.hatenablog.jp
2.密
お互いの秘密をぜんぶ 持ち寄ろう
二回に1度虚構を混ぜよ5.くま
目の下のくまさえ魅力になる人だ
失恋したら標本にする
id:yureru-skirtさん
ゆれスカさんは第5回からのご参加でしたね。ことば選びに独特のセンスがあり、初回参加時からどきりとさせる歌がありました(「花火師は死に近い職業だよね 死について云う君は遠くに」とか)。 学生さんかとお見受けしますが、これからも折りに触れ詠んでいただければ嬉しいです。
5、下句の毒っ気が持ち味ですね。
8、ことば遊びの力の抜け加減が好きです。
17.
sociologicls.hatenablog.jp
1.ファー
傷口にフェイクファーを巻きつけて街へ踏み出せ ビールを買いに
5.くま
あくまでも「貴方の為」と言うけれど 正しい事は今正しくない6.石
曖昧に家を飛び出す直前に掴んだ石の意味は「決断」
id:sociologiclsさん
稲沢さんはフジファブリックなどいわゆるロキノン系(で、いいんでしょうか、私疎くて)とフィーチャーした歌がお上手だな、と思っていました。短歌づくりに一時期迷っているところもお見かけして実は心配だったのですが、きっとそれだけ真摯に向き合ってくださっていたのでしょう。
願わくば、今後も負担にならない程度に短歌を胸ポケットに入れいただければありがたいです。
1,傷口、フェイクファー、ビールという単語の使い方と情景がカッコ良くて好きです。傷ついても虚勢を張る強さを感じます。
18.
soulkitchen.hatenablog.com
6. 石
何者になれない僕らのような石 拾って滝のそばに積んでく
8. 鐘
鐘の音の空から落ちてくる夜のおおきいみそかは別れのにおい
10.【枕詞】降る雪の
降る雪の消えたらはるよ春よ来いこたつの君がちんとんしゃんで
id:letofoさん
紙さんは後半からのご参加ですね。慣れてきてさあこれから!と言う時に第一期終了で申し訳ないかぎりです・・・。ブログ中の写真も素敵でした。ぜひ第二期再会の時には、写真と短歌のコラボなどもご投稿くださいませ。
8、「ことばから事象をつくる、意味をつくる」が自然にできている歌だと感じました。そしてきっと紙さんの感じ方、ことばなんだろうと思います。
この歌が好きです。
19.
hayashinaoko.hatenablog.com
2. 蜜
切り分けて蜜を見つける嬉しさよ 真冬を連れて林檎到来
6. 石
どんぐりのかわりに小石集めてる かじかむ指で真冬の子たち
8. 鐘
その鐘は妙なる楽のようであり 祈りにも似て私を鳴らす
id:naocoさん
林さんは第3回からのご参加でしたね。歌も歌われるということで、作詞作曲に通じるものがあるのでしょうか、初登場のときからしっかりとした言語センスと世界観をお持ちでした。
恩師のご逝去の歌もありながら物語のような歌もあり、現実と幻想を行ったり来たりするような感じが読み手にとってはちょうどよい距離感なのでした。
6,どんな情景を詠んでも子どもへの目線の優しさは変わらないなあと感じました。
4. グレーゾーン
年の瀬にやむなく欲するグレーゾーン こたつの中で猫は生き死に
9. 氷
外氷水道管も破裂して桶も私も家も世界も
id:kyokucho1989さん
局長さんはコンスタントにお題の提供をありがとうございました。
「どうやって詠めっちゅーねん」というお題もあり、それがかえってこの企画の緩衝材にもなっていました。
そして提供のお題同様「なにを思ってこの単語をここに持ってきたんだろう」と度肝を抜く、振り幅の広い短歌も多く生み出してくださいました。機会があればぜひ一度短歌の作成過程についてお話させていただきたいです、いかがでしょう。
4、シュレディンガーのこたつの猫ですね。
9、真冬の水道管から始まる世界の飽和。
21.
kn.hatenablog.jp
1. ファー
あの子なら明日の二時にフェイクファー巻いて秘密を増やしに行くよ
5. くま
訃報聞き書棚を探す浅きにもちくま文庫の背表紙は優し
10.【枕詞】降る雪の
降る雪の消えつつもなお放ちゆく熱さを知るはphysicistのみ
id:isachibi59さん
こなやぎさんは後半からのご参加でしたが、ご経験者ということもあり、卓越した語彙力、幅広い見識と遊び心あふれる歌で楽しませていただきました。在住されているという中国と日本との差異を詠んだ歌もユニークでした。
運営の私も、こなやぎさんのように肩の力を抜いて短歌を楽しむ、という詠み方をしたいものです。
5,お好きな作家さんが亡くなった、そんな情景でしょうか。「ちくま文庫の背表紙は優し」が好きです。
6. 石
いててててやっぱ痛いよ大福でやってもダメね石打ち刑は
7. イエス
イエス様なんか言ってよ『・・・・・』なんか聞こえたでもヘブライ語
id:aoxさん
あへあへっどさんは短歌も参加形式もフリースタイルな感じがまた良かったですね。ラストにもお付き合いいただきありがとうございます。サンキューあへあへっどさん。
9月のご参加で「口語調ばっかり」と振り返っていらっしゃいましたが、いずれの歌も口語のリズム感がかなり良かったです。
6,なんで石打ち刑を大福でやっとんねん、と声出して笑いました。
6. 石 夕暮れのサイレン聞いた帰り道 蹴飛ばす石を一つ選んで
7. イエス 誓うかと問われて吐いた「イエス」でも軽いわけではないと思うよ
10.【枕詞】降る雪の 降る雪の消えた路地裏照らされるコーヒー香るざわめきの夜
id:kimayaさん
きまやさんは初回からのご参加でしたね。ご自身がなにを伝えたいのか、どの語彙・フレーズを用いてご自分の気持ちを伝えればいいのかをすでに掴んでいらした印象です。猫さんを詠まれた歌からは愛情も伝わってきました。
きまやさんのテーマがより深くなるのか、それともまた新たなテーマになっているのか、楽しみな詠み手さんのひとりです。第二期再会時に機会があえばぜひまたそこでお逢いしましょう。
6、蹴飛ばす石を一つ「選んだ」ところが良かったです。受動な生活の中で必死に能動的に選択できるものを探している、というのは読み込みすぎでしょうか。
2. 密(蜜→密に訂正しました!)
先代が書いて残した六波羅密(蜜→密に訂正しました!)
6. 石
さて次は石器時代にご案内あれがあなたのお母さんです
7. イエス
もう一度答えてください質問にイエスと言うまで何度も聞くよ
id:shoheiHさん
8月からのご参加ですね。初回から言葉選びのセンスがよい方だな、という印象でした。肩の力を抜きつつ、背伸びをせず、31文字で物語をつくる、ということを楽しんでいらっしゃいましたね。
願わくばこれからも何らかの形で短歌を続けてみてください。
6、タイムトラベルかなんかで時代をとび超えた先になぜか自分のお母さんがいる、それを当たり前のように紹介されている、というねじれ感が気持ち悪面白いなと思いました。
2. 密
休日は密かに眠るケータイも鳴らず誰にも忘れられて
5. くま
とりあえず飾ったくまのぬいぐるみ喜べなかった私を責める
10. 降る雪の
降る雪の白が視界を埋め尽くし窓辺で静かに昂っている
id:hirinzuさん
緋綸子 さんは第2回からのご参加ですね。
ちょうどひとり暮らしを初められた頃と重なったいたんでしょうか、ご自身のふりかえりでも書かれていますが、第一回目10首目の歌がものすごくリアルだと感じたことを覚えています。
「これはたしかに私が作ったんだなぁと思えるもの」を詠んでいくことが短歌を楽しむ大条件だと私も思います。
10、最後の最後にしてひりんずさんの歌の特徴を表している歌だな、と感じました。派手な単語選びや感情の起伏はないけれど、静のなかの動、こまかな機微にどきりとさせられます。
1.ファー
本物じゃないは承知のフェイクファー嘘で包んで温めていて
8.鐘
京の街鐘を鳴らしに友と行く君を案じたあの大晦日
10.【枕詞】降る雪の
透明なドームの中に降る雪の積もることなく描けし軌道
id:sakura_i さん
桜井朔咲さんは第五回7月からのご参加ですね。
その前からご自身で短歌を詠まれていらしたんですね、納得のリズムの良さです。日常を日記的に上手に三一文字に落とし込んで詠まれています。
きっと桜井さんは短歌の目がなくてもコンスタントに詠み続けられる方ですね。そのお力が、第二期再開時、どこまで変化されているか、またご自身の軸がくっきりとなっているかが楽しみです。
8、桜井さんの歌には時おり友達とのかかわりや友達への優しいまなざしが登場します。この「君」が前述の友と同様のお友達なのか、それともそれよりは少し特別な存在なのかははっきりと書かれていませんが、はっきりさせないところに桜井さんの世界観が出ているのかなあと感じました。
27.
hakoniwa-no09.hatenablog.com
8. 鐘
柿食へば十四世紀も前の世のどこかからまだ鐘が鳴るなり9. 氷
流氷の町は待つあの灯台でオホーツクから流れ着く冬
10.【枕詞】降る雪の
降る雪の白髪までに地に沈み採れるキャベツの強きことかな
id:Qingum さん
きゅーいんがむさんは初回からのご参加ですね。
それまで気になってはいたという短歌ですが詠まれるのは初めてだったということで、でも正直初回から「自分の目がある方だな」と思っていました。
きゅーいんがむさんが参加作品後に感じたことを書いてくださっていたのですが、まさに運営が最初に短歌に触れたときの感覚と同じでした。これからもご自身がみつけた魔眼と遊び心を大切に、短歌で遊び続けてくださると嬉しいです。
8、の遊び心が好きです。そしてまた、この歌の表すものこそが短歌俳句などの喜び楽しみではないかなと思います。歌を通して、時代を超えて先達の詠み人に思いを馳せ、感情を共有し、郵便的コミュニケーションをとることができる。
2. 密
クリスマス・カクタスは吐くその昔密封された世界の息を
3. LED
永遠に不滅です、との宣言をあまねく照らすLED灯
6. 石
死ぬであろう日付が書かれたクオバディス 石と呼ばれた男が抱きぬ
id:imada-natsuki さん
いまだなつきさんは初回からのご参加ですね。
この他題詠マラソンやYUTORICK、毎日歌壇等にもご投稿されていたりと創作意欲わきあがること泉のごとし、頭が下がる思いです。AからΩへ、といったようなスケール自由自在の比喩表現が卓越していました。いまださんは別記事で佐藤信夫氏「レトリック感覚」*1をご紹介されていたので、彼のことばが血肉になっていらっしゃるのでしょう。今後の活躍が楽しみな方です。
2、「マス」「タス」「吐く」の韻の踏み方が心地いい。
6,クオ・バディスがわからなかったんですが、この単語の意味を知った途端、映画のワンシーンのように映像が頭に浮かんでくるのが不思議でした。
4. グレーゾーン
どちらにも転べるようにと守ってたグレーゾーンに色をつけよう
6. 石
欲しかった石ころぼうしも今はもうさみしさに負けそうだから絶対いらない8. 鐘
放課後に鐘楼広場に集まって勝手に撞いて怒られたかった
id:mii_nm さん
ご参加はこれで2回め、かな?
でもきばりすぎず、マイペースに参加してくださっているのが嬉しかったです。参加まもなくでもう第1期お休みなのは申し訳ない限りですが、ぜひ再開したらまたゆるゆるとご参加くださいね。
8、鐘楼広場ってことばを初めて知りまして、たしかにそれは勝手に撞いてみたいかも…!と想像しました。
勝手に撞いたら寄宿舎の女教師がキーッって怒りにくるんですよね。で、友達と笑いながら逃げるんですよね。
2,密
カラオケで 耳にささやく 密かごと やめておくれよ 君はヤツの娘
5,くま
初日の出 くまなく照らす 初霜を 初ふみもちて はやる心と
10,降る雪の
降る雪の 雑音すべて かき消して さよならの言葉 のみ人生だ
id:masarin-m さん
まさりんさんは第八回からのご参加ですね。最後まで正式名称が決まりきらず大変失礼をしました…。「やりながら決めていけばいっかー」と言って、わりと何も決まらないことが多い私です。
まさりんさんはid:zeromoon0さん主催「短編小説の集い」に参加されており、精緻な人物・情景描写でも知られる書き手さんです。
短歌は初心者枠でのご参加ということでしたが、やはり創作意欲の旺盛な方は初めてだろうが熟練だろうがいろんな形式での創作に躊躇がないんだなあすごい、というのが率直な感想です。
短歌は定型の形式に慣れるというのも必要なので、もっとまさりんさんの今後の変化を見ていたかったのですが、突然の第一期終了ですみません。
2,なんとなく90年代を彷彿とさせますが、本当にこんなドラマティックなことが身の上に起こっていらっしゃいそうです。で、実話なんですかこれ。ドキドキ。
以上、上記参加者さん以外にも、たくさんコメントしたい方がいらしたのですが、別の機会にいたします。
また、拙い運営にもご協力をいただき、ありがとうございました。至らない部分も多々あったと思いますが、次回に活かします。
これからも皆さんが、嬉しいとき楽しいとき哀しいとき死にたいとき、心の片隅に「そうだ、短歌があるじゃないか」と思い出してくださると嬉しいです。
ではまたいつかの、第二期「短歌の目」でお逢いしましょう。
よいお年を。
*1:「類似性にもとづいて直喩が成立するのではなく、逆に、<直喩によって類似性が成立する>のだと、いいかえてみたい」という部分が、永田和宏著「 NHK短歌 新版 作歌のヒント 」内で紹介されていました