短歌の目第十回12月の総評です・前編
第十回12月、ラストの回は30名のご参加となりました。
皆様ありがとうございました。
ラストにあたり、今回の皆様のご投稿作品から運営が個人的に「いい!」と思ったものを上限3つまでに絞りピックアップ、感想を述べさせていただきます。
なお今回のピックアップ基準は、基本定型を守った上で、
「三十一文字で物語を感じられること」
「詠み手さん比で上達が感じられること」
「詠み手さんの世界観が感じられること」
です。
今回は前編として、エントリ−1〜15名の方への感想です。
6. 石
「この先に私を殺めた石があるので砕いて私と埋めてください」7. イエス
物事に完璧などはないですと復活仕立てのイエスがはにかむ10.【枕詞】降る雪の
降る雪の真白き鋼ぞ眺めても流れる言葉は積もりも積もらぬ
id:zeromoon0さん
基本定型、リズム、情景描写を高いレベルでしっかりおさえつつ、回をおうごとに会話短歌や「詩歌」としての短歌、「感覚」の表出へ挑戦する姿勢が感じられました。「ばっかじゃねーのイッツクレイジー」の下句の語呂の良さとかいまだに完璧だなと思いますね。
ブログ活動自体ご自分にかなりの制限を課されている方なので(個人情報ほとんど出さないとか)、時に感情や私性の表出も必要になる短歌はやりにくいかもしらんと思っていましたが、どの歌もそれぞれ31文字のなかで物語のワンシーンをしっかり「創作」できていらしたのはさすがでした。
6、(悪)夢っぽい時空のねじれ感がむぅさんっぽくていいなあと。
7、復活したあとのイエスは神様なはずなんですけど、はにかむイエス、かわいい。
2. 密
密やかに愛を育み密やかにさよなら告げた 誰も知らない
9. 氷
あなたとの別れ話が長引いて氷はぜんぶ溶けてしまった
id:anohikaさん
10月からのご参加ですね。31文字で物語のワンシーンを見せる、というのが最初からお上手だなーと思っていました。もう少し成長していくところを見ていきたいというなかでの第一期終了で申し訳ないです。また次回開催のときは是非、ご参加くださいね。
2、秘め恋というやつですね。寂しさが出ています。
9、氷というディテールに目線を向けているところが短歌のツボをわかってらっしゃいます。
1.ファー
あたらしい国をめざして行く鳥よ「
遠くへ遠くへ 」って鳴きながら飛ぶ4.グレーゾーン
見渡せばグレーゾーンの海だった泳ぎつけるだろうかどこかに
9.氷
ひとりずつ溶けない謎を持ち合って永久凍土はあるってわかる
id:hyacinthusさん
ご経験者とのことで、ご自分の世界をしっかり持っていらっしゃって、運営としては頼もしいかぎりでした。
題詠について「楽ではないけど楽しかった」とのこと、他の方の詠み方など新しい短歌の楽しみ方を今企画で見つけていただけたなら、運営冥利につきます。
1、「ファー」というお題を「far」と鳥の鳴き声、複数のことばにかけて歌にしたのが上手。
9、誰もが他人を100%は理解し得ない。けれど誰もがその寂寥感を感じている、そう思えば、少し楽になれます。「あるってわかる」ことが救いです。
6. 石
ママ見てよギュッと握った彼の手の中にあるのは光の原石10.【枕詞】降る雪の
降る雪の消ぬ間にここへ来れるのか待つ身もどかし飛んでゆけたら
id:ryo71724さん
りょうさん、皆勤賞ですね!今企画に参加まで、短歌にはあまり馴染みがないとおっしゃっていた記憶があります。
実は個人的にいちばん成長スピードが速い、と感じていたのがりょうさんです。
6、第0回目から一貫してお子さんを詠んだ歌がありましたね。
ラストでこのような歌が生まれるとは。
ママと呼びかける子、ギュッと握った手、その中の光、という風にズームインの目線と希望を感じる読後感が素晴らしいです。
5. くま
くまさんに出会った少女はやがて森の生き物率いて首謀者となる
7. イエス
「イエスタデイ」を真空管でかけながらアラームの針を春に合わせる
8. 鐘
鐘の音が聞こえてくるのに寺の名を知らないままでまた年をとる
id:nigaichocolateさん
タカノさんは雑誌の短歌企画にご投稿されたりなど、挑戦ご活躍がめざましかったですね。どの歌もレベルが高く☆を連打する手を止めるのが難しかったです。
5のほか3「LEDの集合体を見るだけで満足そうなあなたは貧しい」も、前半と後半で読者の予想にデコピンするようなほんのすこしの毒が入っているところがいいです。
7,冬眠の儀式ですね。
8,あまり派手さはない歌なんですが、これがいちばん好きです。
2. 密
これ以上 密度高めて触れ合えば
暁(あけ)には融けて 紅櫛遺す
3. LED
永き時光るとぞ云ふLED
人なき世をも照らす日の来る
6. 石
いくつもの石飲み込んで石を生む
我が生き方と腎臓は似て
id:majyonanさん
ナンさんは途中からのご参加でしたが、毎回真摯に取り組んでくださっているのが伝わってきました。ありがとうございます。
短歌のある日々とない日々とが線引きできる、というのは運営の私もまさにそんな感じです。これからも言葉に居場所を、その場所のひとつとして心に短歌を飼っていただければ、こんなに嬉しいことはありません。
2、艶っぽく、鮮やかな歌ですね。
3、人のいない世界で灯るLEDの街。
6、誰もがいろんなものを飲み込んで生きているんだな、という寂寥感と安堵。
2. 密
お年玉百年まとめて請求す姪の理想は北への密使
10.【枕詞】降る雪の
降る雪の調整ダイヤル消えてなお天にまします我らの降雪機
id:ankoroさん
目さんも何度も評しますが、イメージのギュギュっと詰まった「どこを見ているんだ短歌」が面白い方でした。二太郎サンバとかまだ覚えてますね。
2、しっかりものの姪っ子さん、北へ密使に出て何を為すつもりなのでしょうか。
10、「我らの降雪機」と破調にして単語をねじこむところ、これはこれが正解ですね。「天にまします」は神様への枕詞みたいなものですが、そこにひょうひょうと無機物を持ってくるところが目さんの短歌の持ち味なんだろうと思います。
9「かき氷、負けるなこっちはパピ氷、むめも氷とやゆよ氷」とか狂喜がかったのも好きです。パピ氷て。
2. 密(蜜→密に訂正しました!)
目眩すらもよおすほどに密度高い きみと過ごす日の絶望と希望
5. くま
おにあくま ごしょうだおねがいみのがして きみのいのちもみのがすからさあ10.【枕詞】降る雪の
降る雪の消えぬ間にすら潰えうる それでもぼくら 希望に震え
id:mah_1225さん
mahさんはおひさしぶりのご参加ですね!ありがとうございます。
どの回も背伸びせずご自分のことばで詠んでいらっしゃるなあという印象を受けます。2,10、きっと絶望も希望も知っているけれど、それでも希望を信じているんだろうと思います。
ただ希望だけが詠われた歌よりも共感しやすいですよね。
5. くま
ハッカにも存在価値があるのだとのちには知りぬさくまドロップ
6. 石
石亀の石ひとつだけを友として抱いてみたり足蹴にしたり
8. 鐘
鍾乳をぺたりと跳ねて笑いける祖母に追いつきたい気もするけど
9. 氷
新品 まっさらの氷枕の弾力をたしかめてまた仕舞いこみをり
id:usauraraさん
うさうららさんの歌は私小説風、あとがきからご自分の実生活からそう離れてはいない歌なのだろうとお見受けします。
だからこそ「足蹴にしたり」「鍾乳」などのディテールとその次に続くことばにドキリとさせられ、そこでリアルを感じるのです。
ご自身のコラボ活動でもご活躍中で何よりです。
6、石亀と「私」ふたりだけの濃密な友情を感じます。
9,なんでもない動作なんですけど、日常の息遣いを感じる歌で好きです。
3. LED
ヨーソローLEDに照らされた波間に人魚、セイレーン、など
6. 石
石は兄、妹は骨など出来て 三女は肺に蓮の咲くやも
9. 氷
いたいほど耳に 氷柱 つららのきよらかな冬の光を集めた音が
id:amenomorinoさん
にじ子さんの歌は幻想的な世界観を感じさせることば選び、情景のきりとり、テンポで、唯一無二のものでした。ご自分の世界観をお持ちだということは詩作創作において素晴らしいことだと思います。
たとえば6、このきょうだいに起きていることは不穏なんですが、何か物語的、幻想的で美しい。
11.
tanpopotanpopo.hatenablog.com
1. ファー
ファー着てるおまえ達はいいわねと 犬見て思うはだかの猿は
9. 氷
カランカラン氷鳴らして静寂をかき消すふたりの罪は消えない
10.【枕詞】降る雪の降る雪のアスファルトに溶けて消えゆく如く我も透明になれ
id:tanpopotanpopoさん
タンポポさんは失礼ながら、短歌やなんらかの創作や吐き出す場がないとアカン人ではないかなと思っていて、なぜ私がそう言い切れるかというと、自分もなんとなーくその気持ちがわかるからです。
だから、タンポポさんが「歌詠みは、きっとこれからの自分を支えてくれる」と思ってくれたなら、本当に良かったです。
1、みずからを「はだかの猿」と詠む、突き放した目線がいいです。
3. LED
吐く息の白い粒子が街中に満ちると見えるLEDたち
4. グレーゾーン
もう一歩足りないのなら手を取ってグレーゾーンでタップダンスを
9. 氷
薄氷を裸足で歩き行く人の国には暖炉もココアもなくて
id:negi_aさん
ねぎさらささんはお仕事が変わりお忙しいなかで、最後の短歌の目に参加してくださってありがとうございました。どんなお題が来ようとも一定以上のレベルで、しかもきちんとご自分の世界観で詠めていらしたのが、本当にすごいことだと思います。
カニ歩きとか上様でネタにもメタにも走らずに自分の世界観守れるってそこまで相当基本で詠んでいないとできないと思うんですよね。
9,暖炉もココアも必要ない国の人々にはなにか代わりになる楽しみがあるのでしょう。ただ「暖炉とココアの楽しみを知る国」から来た者にとっては、ないものを恋しがって傍観するばかりです。
13.
kazagurumax.hatenablog.com
4. グレーゾーン
霙 みぞれやまず冬至の朝はなお昏くグレーゾーンを背負って カラス
5. くま
白菜のまるくまあるく閉じ籠もる 寒さもしくは春を拒んで
6. 石
ねえ、きいて、石でも成長するみたい、うれしい、ずっと側で見てるね
id:kazaguruMaxさん
Kazさんは3月からのご参加でしたね、ありがとうございます!
住んでいらっしゃるところかしら、身の回りにある自然や日常を等身大に詠まれた歌がとても清々しくて素敵だった印象です。「万緑の吾子の歯〜」の句で通じ合えたときはとても嬉しかったです。先達の作品を「つなぎ」にして、時代と場所を超えて気持ちを共有できること、これって短歌俳句の醍醐味だなーと思います。
4,「カラス」の表記や「昏く」と「グレーゾーン」の表現の近接など、もう少し改良できるかもしれませんが、それはさておき詠まんとしている情景がカッコ良いです。
5,「寒さもしくは春を拒んで」の表現が好きです。
6、試みだなーと思いました。
6. 石
先に出た、にじ子さん作「石は兄、妹は骨」が気に入りました。(※)
8. 鐘
鐘突き堂そばの竹藪で大叔父が両手手放しで立ちションをした
id:fktackさん
fktackさんの初回登場時は、「すげえのきたぞ」というのが正直な感想です。
そしてたしか、「初めて短歌に触れたときの気持ちを忘れたくない」といったことをおっしゃっていて、その気持にとても共感します。
fktackさんのスタイルには賛否両論おこりましたが、表現は失礼ですが「最低限文字数守ってれば参加できるぞ」という一例になり、運営としては助かっていたことも事実です。
6,先に言われた。
8,破調ですけど「した」の完了形に「おう」となりました。手放し立ちションてできるもんなんですかね。
5. くま
くまさんのお世話をさせていただけて ばあやは幸せにございます
6. 石
キャプつばの石崎君を脳内で 野球のほうの「キャプテン」に放つ
id:okappasanさん
おかっぱさんは後半からのご参加でしたね。ありがとうございます。
良くも悪くも短歌というか「31文字でおかっぱさん」という印象の歌もあったのですが、おかっぱさんのキャラクター自体がおもしろいんでしょうね。ウケました。肩の力が抜けている感じが読んでいて心地よかったのです。
6、すげえ、違和感ぜんぜんない!
*
後半に続きます。
皆さまの作品一覧はこちらから
tankanome.hateblo.jp
総評後編はこちら
tankanome.hateblo.jp